はじめに
7月6日,第1回聖慈会杯開幕戦が執り行われた.本大会は開幕戦にリレー碁,その後月に1度ネット碁を利用して総当たりで行う団体戦で構成されている.今回,リレー碁に参戦するため九州大学チームは前日から大阪へ向かった.
リレー碁とはチームで1つの対局を戦う形式の囲碁である.わかりやすくルールをまとめると以下の通りである.
- 対局を3つの段階に分ける.第1段階『初手〜60手』,第2段階『61手〜141手』,第3段階『142手〜終局』.それぞれの段階で異なる選手が出場する.
- 対局者以外のチームメンバーは検討席で検討できる.1局の間に最大3回のタイムアウトを取ることができ,検討席の判断やアドバイスを対局者へ伝えることができる.
- 段階ごとの選手交代とは別に最大3回,検討席の判断で選手を入れ替えることができる.
単に対局するだけでなく,仲間を力を合わせるところ最大の特徴となる.なお,タイムアウトは自身の持ち時間が消費されるため,注意しないと時間に追われる結果を招く.どういった局面で誰を出すのか,選手を入れ替えた方が良いのか,皆が見慣れたスポーツのような感覚で囲碁を楽しむことが出来るのがリレー碁であると言える.
聖慈会杯は元々,関西の大学を中心にリレー碁を普及する目的で構想されたものである.本来であれば,我々九州大学はエリア外であるが,筆者が大会の企画者であるめいえん先生に小・中学生の頃から囲碁を習っていた縁から誘われた.「流石に参加者は集まらないだろう」と思いつつも,後輩たちを誘ってみたところ乗り気な部員が多くて驚いた.開幕戦の参加者も6名と他チームの中でも多い数となったのは,大会の話を持ち込んだ身としては大変嬉しい限りである.
いざ大会の蓋を開けてみると,関西圏の大学のみならず,一橋大学もチームを組んでいた.一部,連合を組んでいるチームもあり,チーム一覧を見た際には「あれ……それ良かったのね」と心の中でツッコミを入れた(笑).
第1回大会には,全8チームが参加した.メインとなる関西圏からは,立命館大学,京都大学,そして大阪および神戸の大学連合.遠方からの参加は,我々九州大学と一橋大学,そして静岡の学生(?)連合である.正直な話,他のエリアの大学とは選手権でしか交友がないため,こういった場で交友をとったり,対局したりする機会が得られることは大変ありがたい.これらチーム一覧を眺め,筆者と上村氏は「せめて最下位は逃れよう」と目標を1つ定めた.
これらのチームの中で筆者が驚いたのは“静岡学生連合”である.このチームのツッコミどころは挙げればキリがないが,何よりチームメンバーの大多数が筆者がめいえん囲碁教室へ通っていた時期が重なる面子ばかりである.正直,筆者は九州大学チームではなく静岡学生連合に巻き込まれ参加したかった.
そういった経緯もあり,筆者だけは大会に参加するというより,同窓会に参加するような感覚で開幕戦へと向かった.日程が当初の予定より1週間ずれたことは幸いであった.元々の予定では筆者は関東の某大学で行われる研究集会で講演予定だったため,同窓会開幕戦に参加できなかった.
いざ,開幕戦
開幕戦では大阪大学ベリーダンスサークルHalaawaatの演技が行われ,一部部員はファンになったらしい.なお,筆者はベリーダンスの定義の方が気になってしまい,演技に集中できなかった(演技中,Wikipedia等で調べていた).囲碁の大会の開会式でこのような演技の披露があるのは珍しいように感じた.
開幕戦ではリレー碁が2回戦行われ,対戦相手は抽選で決定する.第1回戦の相手は京都大学であった.必要最低限の3名しか会場入りしていなかったが,それでも我々九州大学にとっては強敵と言える存在である.
第1段階は友田氏を出すことにした.何故か,この日の友田氏は醸し出すオーラが普段と違った.安定した出だしからミスを避けるため,残りの数手を齋木氏に任せた.戦いが発生する気配のない穏やかな立ち回り,ひと隅を大きく確保することが出来たため,好調な出だしと言えた.
第2段階では筆者が出ることになった.正直,穏やかな立ち上がりの碁は苦手である.とは言え,無謀な戦いを引き起こす訳にもいかず,慎重に戦いの場を探す形を強いられた.戦いを求めたいたのは相手も同じだったらしく,戦いの火は第2段階開始直後に起こることとなる.筆者はなるべく,相手が戦いを仕掛けやすくなるよう薄めに打ったことを覚えている.結果として大きな石の生死を巡る戦いが始まる.そのタイミングで対局者を上村氏に変わった.どうやら,筆者は上村氏が最も打ちやすい形を引き出したらしい.
上村氏が戦いをうまくまとめ,第3段階では阿部氏を出した.筆者らが中盤で時間を使いすぎた上に,タイムアウトも時間いっぱいに取りすぎた関係で,終局にかけて時間に追われる形となった.時間に追われ,冷静に判断ができなくなり,十分に優勢であった対局を落としてしまった.
1回戦と2回戦の合間に中国都市対抗リーグの対戦が行われた.
次の一手予想などもある関係で筆者は九州大学チームの席に居たが,ちょくちょく静岡チームの方へ寄った.真面目な検討の合間に,開会式のベリーダンサーの中で誰が好みかという話が湧き上がるあたり昔ながらのめいえん教室の面々だなぁ,と感じた.
中国都市対抗リーグが終わってすぐに,大学生リーグの第2回戦が行われた.九州大学チームの第2回戦の相手は静岡学生連合チームとの対戦であった.
第1段階は1回戦では出番のなかった佐藤氏,現在1年生の九大囲碁部の期待の新人である.手早く打ちながらも安定した立ち回りに驚いた.相手の石を苛められそうな形を残して第1段階を終えた.第2段階では本日ノリにノリまくっている頼れる漢,友田氏.高校時代からの付き合いである阿部氏曰く,この日の友田はSSRレベルでキレッキレに冴えていた.実際,この日の彼は冴えていた.対局中は見られなかったが,対局終了後に中継を眺めてみると,AI判断で勝率70%以上も引き離していた.そして,“工夫の一手”と“奇抜な一手”でその場にいる全ての人を翻弄した.正直,不安もあったが余りにも友田氏がノリに乗っていること,そして同じく調子の良い上村氏と次の一手の感覚が非常に重なることから全てを一任してしまった.下手に友田氏に干渉してしまった場合,SSR状態からN状態にポテンシャルが落ちる可能性が十分に考えられた.我々はこの日の友田氏のポテンシャルに影響を与えたくないと考え,全てを一任してしまった.その結果,“奇抜な一手”を招いてしまった.
第二段階を終える頃には,盤面10目近くの差がついていた.それでもチャンスがないわけとは言い切れなかった.第三段階では上村氏を出した.途中,筆者は良いヨセの案が浮かんでいたが読み切れず,交代のタイミングを逃してしまった.この判断が難しいところがリレー碁である.負けが確定したのち,阿部氏,筆者と交代してヨセを打ち切った.このとき,筆者は致命的な失態を犯してしまった.地合いが足りないことは自明であったため,最後の最後に唯一出場していない齋木氏に交代して,交代直後に投了する,というその場を沸かせることしか出来ない行動を取り損ねた.
どのタイミングで選手を交代するべきか,タイムアウトを取るべきか,リレー碁独特の判断の難しさを痛感する一局となった.
1回戦,2回戦共にAI判断で勝率70%越え(1回戦に関しては95%越え)の対局を落としてしまった.どちらも時間配分と中盤後半からヨセにかけての戦いをまとめるあたりでミスが目立つ形となった.チームメンバー共有の弱点箇所を認識する良い機会となった.今回は2連敗という結果に終わったが,まだ8月以降の団体戦が残っているので挽回できるよう善処したい.
また,今回の対局は2局とも弈客围棋で配信された.配信に伴い,リレー碁の対戦には各々プロ棋士による解説が着く.この度,九州大学チームの対戦は1回戦,2回戦ともに大川初段に解説していただいた.普段,プロの方から解説および局後の検討で指導を受ける機会がないため,大変貴重な経験を得ることができた.
おわりに
懇親会では,かつてのめいえん教室の面々は1箇所に固まり,ある意味同窓会のような雰囲気が生まれていた.今大会で一番驚いたことは懐かしのメンバーが集ったこと以上に英龍の成長である.筆者の最後の記憶では,彼が小学校に入ったかどうかという時期である.それが今では中学生,昨年は全国大会で優勝している.しかも身長の抜かされてしまった.大人たちの言う,「子供の成長は早い」という言葉を実感してしまった……
終電の都合で筆者と一部メンバーは途中で抜ける形となったが,非常に有意義なひと時を過ごすことができた.なお,残りのメンバーは香川でのエクスカーションを予定しており,追加で一泊している.詳細はエクスカーション部門を参照してください.
Written by 紅い数学科